作業道開設・村有林伐採

十津川村「林業6次産業化」計画

 工事の影響で本宮 大社から玉置までの奥馳道に通行困難の箇所があるとの情報が、2017年(平成29年) 4月「守る会」にもたらされました。玉置神社周辺村有林・民有林で進められていた作業道開設と森林伐採は、十津川村が林野庁主導1 のもと「林業6次産業化」をスローガンに2014年来取り組んでいる林業施策によるものでした。大型車通行可の広幅作業道路網開設と伐採作業の機械化を推進、一定面積のスギヒノキ林を皆伐、再び杉檜を植栽する計画です2

 玉置山北西面からはじまった事業は神社本殿のある玉置 山南面に拡大し、世界遺産奥馳道や、まだ秘められたままになっている歴史文化遺産、美しい自然景観への配慮に 欠けた展開を続けていました。ここは古代からの神社表参道、熊野街道にある一の鳥居の内側で、神域として大切に守られてきた地域でした。

 周辺の急斜面皆伐も進行し、玉置山展望台あたりでは20町歩、南面地域でも神社直下の松平谷では 5町歩近く、奥駈道沿いの和歌山県境近くでも約6町歩の皆伐が実行されました。無理な作業路開設と急斜面皆伐は、土砂の流失を招き渓流景観を脅かしており、紀伊半島大水害の時のような豪雨に見舞われたら一体どうなるのか、下流域住民が不安を抱いていました。

  1. 林野庁は杉檜の植林を推進した結果、すでに伐期を迎えている人工林は木材需要の倍以上になっているといわれています。事態を打開するため大規模伐採と再植林を奨励し、補助金を出して業者に大型機械を購入させていて、十津川村はそのモデル事業として林野庁の機関紙に紹介されています。 ↩︎
  2. 平成24年度の十津川村森林基本計画では、村有林を含む玉置山周辺の東区内で、作業路延長計画は177km、集材可能面積は4095hr(町歩)、集材可能量は155万㎥となっています。  ↩︎

守る会の立場と村執行部との折衝

 私たちは、林業振興そのものに反対しているのではありません。
二千年以上にわたって玉置への信仰を支えてきたこの地域の遺産的価値、自然的、観光的価値を認識再評価し、林業施策による現状変更は他の地域と同じ基準ではなく、将来に禍根を残すことの無いよう大局的な展望に基づいて再検討されるべきと要望してきました。
「守る会」ではこの件に関し十津川村長への 会見を申し入れ、2017年(平成29年)5月から8回にわたって村執行部を含めた話し合いが持たれました。乱雑な作業道作設現場の写真を示し、世界遺産への配慮と自然環境への影響を問い、この地域での新しい観光ビジョンの提案もしてきました。 質問状も2度提出、回答を受けてマスコミ発表と現地案内をしました。

 2018年(平成30年)1月には、事前説明も通知も受けていなかった地元大字玉置川総代から、村長宛に「意見書」が提出され、住民安全への配慮に欠けた林業施策に抗議し、作業道開設工事と村有林皆伐の中止を求めました。
 4月には村長村執行部、議員、各課長等による現場視察が実現しました。視察を経て村は作業路建設のあり方を改め、2018年5月には世界遺産や林業の専門家、大学教授、伐採業者、林業関係者などからなる「森林づくり審議会」を設置、自然環境や景観へ配慮した林業施業方法等についての検討を続けています。

 2023年現在、村はこの地域での森林作業道延長、大規模伐採を中断しています。新村長が就任し、6次産業化政策は立ち消え状態になっているように見受けられます。しかし、地域の遺産的価値、自然的、観光的価値を認識再評価する方向には至っていません。

 林野庁は杉檜の植林を推進した結果、すでに伐期を迎えている人工林は木材需要の倍以上になっているといわれています。事態を打開するため大規模伐採と再植林を奨励し、補助金を出して業者に大型機械を購入させていて、十津川村はそのモデル事業として林野庁の機関紙に紹介されています。